2023年3月に、アンティークコインのオークション「Roma Numismatics」の創始者であるリチャード・ビール氏がコインの出所偽装などの容疑で逮捕されました。
真贋を見極めるのが非常に難しいアンティークコイン。
大手のオークション会社の社長が逮捕されたというニュースは、アンティークコインコレクターにとって非常にセンセーショナルなものでした。
今回は、コインの出所偽装などでリチャード・ビール氏が逮捕された件について詳しく解説します。
- 2枚のコインの出所を偽装したことと、複数のコインを盗品であると知りながら所持し販売したことで逮捕
- Roma Numismatics社長だけでなく、コンサルタントをしていた人物にも容疑がかけられている
- 出所偽装されたコインは約420万ドルで落札された古代ローマコイン「EID MAR」と約29万3,000ドルで落札された「Tetradrachm」
- 2023年8月にリチャード・ビール氏は罪を認めた
目次
Roma Numismatics社長逮捕の概要
「Roma Numismatics」社長逮捕の概要についてご紹介します。
- ロンドンのコインオークション大手「Roma Numismatics」の社長リチャード・ビール氏がニューヨークにて逮捕された
- 経歴を偽ったコインを高額で販売した容疑をかけられている
- 盗品のコインを所持した容疑もかけられている
- 共謀者としてコイン商のイタロ・ヴェッキ氏も告発されている
イギリスのロンドンに拠点を持つ、アンティークコインオークション大手の「Roma Numismatics」。
その「Roma Numismatics」の創始者兼取締役社長を勤めるリチャード・ビール氏が、経歴を偽ったコインを高額で販売した容疑でニューヨークにて逮捕されたことが2023年3月にわかりました。
容疑をかけられる原因となったのは2枚のアンティークコインで、1枚は約420万ドル、もう1枚は約29万3,000ドルで落札されたそうです。
420万ドルで落札されたコインはジュリアス・シーザー殺害を記念して発行された古代ローマ時代の「EID MAR」。
もう一方のコインは古代シチリアのナクソスで発行された「Tetradrachm」です。
リチャード・ビール氏はこれらオークションにかけたコインについて所有権履歴を改ざんした疑いがかけられています。
履歴改ざんの容疑がかけられることになったきっかけは、ガザで略奪された5枚のコインを販売しようとしたことでした。
これらの容疑は、もし事実であれば懲役25年の刑を言い渡される可能性のあるものです。
リチャード・ビール氏の共謀者としてコイン商のイタロ・ヴェッキ氏も告発されています。
イタロ・ヴェッキ氏がリチャード・ビール氏に問題となったコインを提供したとされています。
大手コインオークション会社の社長がコインの経歴偽造の容疑で逮捕されたことにより、アンティークコイン業界は騒然としました。
監修者 葉山満
Roma Numismaticsと社長のリチャード・ビール氏について
問題の起こったアンティークコインオークション「Roma Numismatics」や社長のリチャード・ビール氏はどのような経歴があるのでしょうか。
- 「Roma Numismatics」は2008年にリチャード・ビール氏によって設立されたロンドンのアンティークコインオークションハウス
- リチャード・ビール氏はイギリス陸軍を退官してすぐに「Roma Numismatics」を立ち上げている
- 他業種からいきなり会社を設立し成功したリチャード・ビール氏の経歴は、コイン業界では非常に珍しい
Roma Numismaticsとは
「Roma Numismatics」は、2008年に創設されたアンティークコインのオークションハウスです。
古代ギリシャ、ローマ、ビザンツ帝国時代のコインなどに深い専門知識を持つことにより、急速に成長を見せました。
また、人気のある古代コインにとどまらず、さまざまなネットワークを駆使して中東やケルトのコイン、中世のコインなども幅広く取り扱っています。
「Roma Numismatics」は主に年2回、春と秋に通称「In & Out」と呼ばれる会員制のクラブ、海軍軍事クラブで オークションを行う他、公式サイトにてこれまで14回のネットオークションを開催しています。
CEO兼オーナーのリチャード・ビール氏の経歴
リチャード・ビール氏の経歴は、アンティークコインオークションの創始者としては少し珍しい経歴を持っています。
ダラム大学で経済学を卒業したのち、イギリス陸軍の大尉を務め、その間にアンティークコインについての知識や販売ノウハウを習得しました。
通常、アンティークコイン関連企業のオーナーは他のオークションハウスやアンティークコイン研究に携わる企業に務めたのち、起業する人が多く見られます。
しかし、リチャード・ビール氏は40代でイギリス陸軍を退役してすぐの2008年にアンティークコインオークション「Roma Numismatics」を立ち上げました。
共謀者とされるイタロ・ヴェッキ氏との関係
共謀者とされるイタロ・ヴェッキ氏は、長年アンティークコインディーラーを務めていた人物で、大英博物館にもコインを提供しているとされています。
International Association of Professional Numismatists(国際専門貨幣学者協会)の正会員でもあり、IAPN(国際貨幣専門協会)の名誉会員にも認定されました。
そして現役のコインディーラーを退いたのち、「Roma Numismatics」にコンサルタントとして協力していました。
1992年に未申告の古代ギリシャコインを米国に密輸しようとしたとして拘留された過去や、2012年に高額で落札されたアンティークコインの出所を偽装した容疑をかけられた過去があります。
今回の容疑により、IAPNの名誉会員の資格ははく奪されました。
具体的にどのコインにどのような偽装容疑が?
今回の社長逮捕の事件で偽装容疑がかけられているコインはどのようなものなのでしょうか。
そして、どのような偽装容疑がかけられているのでしょうか。
詳しく解説していきます。
- 出所を偽装されたコインのひとつ古代ローマコイン「EID MAR」は世界で3枚しか確認されていない希少なコイン
- 出所を偽装されたもうひとつのコイン古代ギリシャコイン「Tetradrachm」はシチリアのナクソス島で発行されたコイン
- 窃盗品所持の容疑がかけられているアレキサンダーコイン「Alexander decadrachms」は、世に出ている20枚中11枚が「Roma Numismatics」にて出品されている
古代ローマコイン「EID MAR」
引用元:Mirror
偽装容疑がかけられているコインのひとつ、古代ローマコイン「EID MAR」。
「EID MAR」は、ローマ語で3月15日を表す言葉です。
この文字は紀元前44年3月15日にローマの軍人であり政治家のジュリアス・シーザーが暗殺された日を記念したもので、表面に刻印されています。
また、表面には暗殺者であるブルータスの横顔、裏面には短剣2本とピレウス帽があしらわれています。
「EID MAR」の金貨は現在、世界で3枚しか確認されていない非常に希少なコインです。
このコインは2020年10月29日の「Roma Numismatics」オークションで約420万ドルで落札され、これまでで最も高額で落札されたコインとして注目を集めました。
このコインは2013年~2014年にリチャード・ビール氏がイタロ・ヴェッキ氏から譲り受けたとされています。
しかし、2015年にはこのコインを「スイスの古いコレクションから入手したもの」として、リチャード・ビール氏がある人物に直接販売しようとしていた、という証言もあります。
その後「EID MAR」は、2020年のオークションでドミニク・ド・シャンブリエ男爵のコレクションとして出品されました。
リチャード・ビール氏はこのコインがドミニク・ド・シャンブリエ男爵のコレクションであることを証明する文書を裏金を支払って作成してもらった容疑がかけられています。
リチャード・ビール氏は過去に、イタロ・ヴェッキ氏と共に同コインの出所を偽装する書類を作ってもらう代わりに10万7,000ドルの報酬を支払う、という話をとある人物に持ちかけた、という証言も出ています。
現在はコインはギリシャに返還されています。
ちなみに、この「EID MAR」はオークション出品前にNGCによる鑑定を受けています。
NGCによると、コインの真贋やグレードについての鑑定はしたが、出所については見解を述べることはない、とのことでした。
また、アメリカにコインを送る際、リチャード・ビール氏は税関検査を回避するために原産国をトルコと偽っていることも明らかになっています。
古代ギリシャコイン「Tetradrachm」
引用元:Mirror
古代ギリシャの銀貨、「Tetradrachm」についても容疑がかけられています。
「Tetradrachm」は紀元前6世紀後半〜5世紀のころに古代ギリシャで使用されはじめた銀貨で、さまざまなデザインのものがあります。
今回問題となった銀貨は、シチリアのナクソス島で発行されたものです。
表面にはバッカスとも呼ばれる酒の神ディオニュソスの横顔、裏面には精霊サテュロスがワインを飲んでいる全身像が描かれています。
こちらのコインも、「EID MAR」とおなじ経歴の証明書が提出されており、「EID MAR」同様、出所偽装の容疑にかけられました。
このコインも本国に送還され、イタリア当局に引き渡されました。
アレキサンダーコイン「Alexander decadrachms」
引用元:NumisBids
マケドニアのアレキサンダー3世統治時代に発行されたアレキサンダーコイン、「Alexander decadrachms」については、窃盗品所持の容疑がかけられています。
「Alexander decadrachms」は世の中に20枚ほどしか出ておらず、非常に希少なコインとされているもの。
その希少な20枚のうち11枚は、リチャード・ビール氏の所持分から販売されています。
リチャード・ビール氏は「Alexander decadrachms」をはじめとした複数のコインを、ガザで略奪されたものと知りながら所持し、販売したという容疑もかけられています。
監修者 葉山満
リチャード・ビール氏は罪状を認めている
リチャード・ビール氏は、2023年8月にニューヨーク最高刑事裁判所に出廷して、2件のコイン偽装と3件の盗品所持について罪状を認めました。
判事は「ひどく間違った違法行為」としてリチャード・ビール氏の行いについて批判し、「コインの購入者とコインを所有する国家にとって極めて有害である」と述べました。
リチャード・ビール氏は罪状を認めたことにより25年の禁固刑を言い渡されることになりますが、今後減刑される可能性は大いにあります。
次回は2024年3月に再びニューヨーク最高刑事裁判所に出廷予定です。
一方、イタロ・ヴェッキ氏は無罪を主張しています。
監修者 葉山満
まとめ
今回は、ロンドンのオークション会社「Roma Numismatics」のリチャード・ビール氏がアンティークコインの出所偽装をしていたことで逮捕された件について解説しました。
2023年3月に2枚のコインの出所偽装と5枚のコインの盗品所持の容疑がかけられてリチャード・ビール氏。
通常、アンティークコインを扱う会社の社長はさまざまなアンティークコイン関連機関で学んだ後独立する人が多い中、リチャード・ビール氏は陸軍大尉を退官した後すぐに「Roma Numismatics」を立ち上げています。
出所偽装の容疑がかけられたコインは、古代ローマコイン「EID MAR」と古代ギリシャの銀貨「Tetradrachm」。
いずれも非常に希少なコインであり、高額で落札されています。
「EID MAR」に関しては、アンティークコイン至上最高価格の約420万ドルで落札されたことでも話題になりました。
リチャード・ビール氏は2023年9月に2枚のコインの出所偽装と3枚のコインの盗品所持の罪を認めました。
25年の禁固刑を言い渡されたリチャード・ビール氏ですが、2024年3月に行われる予定の裁判で減刑の可能性があります。
- 2枚のコインの出所を偽装したことと、複数のコインを盗品であると知りながら所持し販売したことで逮捕
- 出所偽装されたコインは約420万ドルで落札された古代ローマコイン「EID MAR」と約29万3,000ドルで落札された「Tetradrachm」
- 2023年8月にリチャード・ビール氏は罪を認めた